この記事は、月間人事マネジメントで掲載された連載「評価者1年目のTIPS」を再掲載した記事です。
出典:月間人事マネジメント
目標設定の前に制度に対する共通認識を
「人材育成に力を入れる」「顧客満足度を高める」「スキルを向上させる」これらは以前に私が事担当者として勤めていた会社で目標管理制度を導入した際に社員から提出されてきた目標設定です。ただこの内容では当然のように期末の評価時には、評価者と被評価者で目標達成レベルの認識が異なり、お互いが責任を擦り付け合うという結果になりました。もちろん人材レベルの向上や組織目標の達成もできなかったことはいうまでもありません。そこで連載第 2回目は、目標管理制度の運用をスムーズにするための期初におけるTIPSを④~⑥としてご紹介いたします。(①~③は前回)
【TIPS④】目標設定の制度を確認する
実際の目標設定をする前に、評価者として制度を理解することが必要になります。その内容とは 3点あります。
1 つ目は「目標管理制度はどのような処遇に反映されるか」です。被評価者の基本給に反映されるのか、それとも賞与に反映されるのか、または人材育成だけのためのツールなのかを評価者として認識していない方も多いのが現状です。目標設定の目的を明確に伝えるためにも、まずは目標管理制度の処遇反映を評価者は理解しましょう。
2つ目に認識するべき制度は「目標に向かうプロセスは評価対象になるかどうか」です。原則として目標管理制度は目標の達成度で評価されます。ただし、組織や一部階層によっては、目標達成のための行動プロセスを評価することもあります。例えば、「機械の修理を 1人でできるようになる」は目標ですが、「毎週 1回修理の勉強を実施する」は行動プロセスです。行動プロセスを評価するかどうかは、組織の姿勢次第です。特に中途入社で評価者をしている方は前職との違いを理解する必要があります。
3 つ目に認識すべきは「目標の難易度補正」です。原則としてストレッチ目標の設定は、それぞれの社員のレベルではなく、それぞれの役職・職位基準で立てる必要があります。つまりレベルの高いAさんと、レベルの低いBさんが同じ主任であれば、主任のレベルを基準にそれを上回る目標設定を求めます。ただし、そのような目標ではAさんにとっては目標が低くなりレベルアップにつながらないため、Aさんのレベルに合わせた高い目標が必要になります。その際には難易度補正を利用し、Bさんとの目標設定のレベル差をつけ、公平に処遇しなければなりません。
【TIPS⑤】目標は達成するべき『状態』で表現する
売上目標や獲得する顧客数などのいわゆる定量目標は、「100万円」や「500人」という目標になりますから、誰が見ても同じ数値のため、評価のズレはありません。それに対して定性目標と呼ばれる人材育成やスキル習得などは数値で表現しづらいため、目標設定の目線がズレやすくなります。そこで定性目標では『あるべき状態』を目標として表現し目線合わせが必要になります。
例えば、「部署の社員が分かりやすい業務手順マニュアルを作成する」という目標は『あるべき状態』になっているでしょうか。答えは、なっていません。理由はマニュアルを作成することは『あるべき状態』つまり組織の目標と連携しているわけではないからです。
組織の目標はマニュアルを作成することではなく、部署の社員がミスなく手順通り業務を実施することになります。ですから、目標設定での具体的な表現としては、「部署の社員が〇〇の業務をミスなく手順通りできている状態」これが適正な目標設定になります。
分かりやすいマニュアル作成はあくまでも目標達成のための行動プロセスです。マニュアル作成を目標にしてしまうことは、定量目標としてたとえれば、「数値目標は達成していないが、顧客に何度も何度も提案したので、これを定量目標として達成した」となってしまいます。
さらにマニュアル作成を目標とした場合、評価時に、①「社員が分かりやすい」の基準が評価者と被評価者で異なりがち、②マニュアルの作成が目的になってしまい、質は二の次になる、などの問題が発生する可能性があります。その問題が評価者と被評価者で認識の違いを生んでしまい、目標管理の評価をきっかけに信頼関係が損なわれてしまう恐れすらあります。
ただ、若手社員等の場合は上記の「マニュアル作成」に準じた目標とすることもあります。対して、役職者以上の目標は、あくまでも「組織が求めるあるべき状態」を設定しなければ、目標管理の意味がなくなってしまいます。
【TIPS⑥】目標は標準と上位と下位と 3 つ設定する
通常、定量目標であれば「利益100万円を達成する」、定性目標であれば「〇〇の業務を所定時間に 1 人でできるようになる」などと設定しているでしょう。これでも問題はありませんが、さらに社員を成長せる方法をご紹介します。
上記の例でいえば、「利益を110万円達成した場合」や「〇〇の業務だけではなく、さらに▲▲の業務ができた場合」などの上位目標を設定しておくと、100万円の目標達成で満足することなく、110万円という次の目標を社員は目指すようになります。
そのためには、100万円を達成した場合はA評価であるが、110万円を達成通常、定量目標であれば「利益100万円を達成する」、定性目標であれば「〇〇の業務を所定時間に 1 人でできるようになる」などと設定しているでしょう。
これでも問題はありませんが、さらに社員を成長せる方法をご紹介します。上記の例でいえば、「利益を110万円達成した場合」や「〇〇の業務だけではなく、さらに▲▲の業務ができた場合」などの上位目標を設定しておくと、100万円の目標達成で満足することなく、110万円という次の目標を社員は目指すようになります。そのためには、100万円を達成した場合はA評価であるが、110万円を達成した場合はS評価になるなどと明示しておく必要があり、定性目標も同じです。
これは目標以上の数値を達成した場合に、評価者と被評価者において認識のズレをなくすメリットもあります。反対に上位目標を設定しておかないと、110万円ぐらい利益を出せばS評価をもらえると思っていた部下と、120万円の利益でようやくS評価を提示しようと思っていた上司で、評価のズレが出てしまい、せっかく達成したのに後味が悪くなってしまいます。部下のモチベーションを高めるためにも、ぜひ上位評価の設定をお勧めします。
反対に、下位目標を設定しておくことも部下によっては必要な取り組みです。例えば、前述の例で「利益が90万円の場合」はB評価とする、「〇〇の業務が他者の支援を受けて実施できるレベルの場合」はB評価とする、など下位目標を設定することで、危機感を伝えることになります。もちろん前向きな視点から、まずは下位目標を達成できるように業務に取り組み、その後、標準目標、そして上位目標と、少しずつ目標を達成していく効果もあります。
目標設定は標準の目標だけではなく、手間は少しかかりますが、上位目標、下位目標と合わせて 3つを設定しておくとスムーズな評価ができるだけではなく、社員の成長も支援しやすくなります。ぜひ取り組んでいただければと思います。
目標設定と評価のスキルを高める仕掛けが必要
目標設定は、社員の成長を促す強力なツールであり、それと同時に会社や組織の目標に直結する非常に重要な役割を果たします。そのため、評価者に対して適正な目標設定の認識とスキルを提示することは人事にとって重要なミッションとなります。組織目標を達成していく全社的な仕組みであり、社員の評価に対する納得性・信頼感を支える要となる運用が求められているといえます。ぜひ、評価者への目標設定の丁寧なご指導をお願いしたいと思います。